
益田市にある小さな映画館・小野沢シネマをご存じですか?
1981年に開館した益田市唯一の映画館でしたが、2008年に人口減少のあおりを受け、一時は閉館。
しかし、2022年に復活を遂げたのです!
人口わずか4万人の町にエンタメを。益田市に映画館を取り戻した館長の想いを取材しました。
小野沢シネマで映画を見よう

特徴的なブラウンの複合ビル、その3階に小野沢シネマはあります。

正面入口がホテルのフロントとなっていて、2階にボーリング場とゲームコーナー、3階に映画館とカラオケBOXが入っています。

チケットは券売機で購入!タッチパネルから多くの上映時間をラインナップを選ぶシネコンと違い、
大変シンプルでわかりやすいです。

小野沢シネマでは基本的に1日4本のラインナップを上映!
私が今回見たのは、ひょんなことから殺し屋がダンス大会に出場する羽目になる『スペシャルズ』。
一度別の映画館で見たことはあったのですが、「どうしても、もう一度見たい・・・!」と思っていたところ、
小野沢シネマで上映があることを知りました。

小野沢シネマは話題作が全国公開されたタイミングから少し後ろ倒して公開することも多いため、
このように大半の映画館で上映が終了してしまった作品をもう一度見たい!という映画ファンへの救済にもなっていたり・・・。ありがたや・・・!

映画のお供に、江津市で製造されている「ジェリーズポップコーン工房」のポップコーンが!
やっぱりエンタメ映画にポップコーンは欠かせん!ということでキャラメル味を購入しました(^^♪

収容人数は200人ほどのシアターが一つ。
座席もスクリーンも音響も、当時のものをそのまま使用しているということ。
一度閉館してから15年近く経っているのに、「こんなに状態が良くキレイに残っているんだ・・・!」と感動しました。座席はゆったりとしていてふかふか。
今回私が見た「スペシャルズ」は銃撃戦が多い内容なのですが、音響も良く、しっかりとした迫力で味わうことが出来ました!
益田市に映画館を。和田館長の想い

そんな小野沢シネマを復活させた館長の和田浩章さんにお話を伺うことに。
元々東京で映画に関わるお仕事をしていた和田さん。
目や耳の不自由な人も映画を楽しめる日本初のユニバーサルシアター、
「Cinema Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」をオープン。
そこで支配人を務め、映画館の運営全般に関わってきました。

幼い頃から病を患い、外で自由に遊ぶことが難しかったという和田さん。
そんな和田さんの心を支えていたのが、映画や音楽といったエンターテインメントでした。
スクリーンの向こうには、自分の知らない世界が広がっていて、『自分ではない存在』になることができる。
エンタメは和田さんにとって大切な存在だったといいます。
『どうせ時間を使うのであれば自分の好きなものに時間を使いたい』
就職活動で躓いたタイミングで、そんな思いが芽生えるように。
経験を得るために映画祭のボランティアの数々に参加するようになったころ、
目の不自由な方に映画を届けている団体にボランティアスタッフとして携わることになりました。

ある日、「目の不自由な方の隣で映画を見る」というボランティア活動に参加した時のこと。
同行した年配の男性は、前半いびきをかいていたにもかかわらず、途中から映画の内容に追いついて、
最後には号泣していたというのです!
そんな男性の映画鑑賞を支えていたのが、耳から流れる「音声ガイド」の存在。
和田さんはその場にしかない熱量、グルーヴ感を感じたといいます。
『目の不自由な方と映画を一緒に見ると、周りの目を気にしない分、めっちゃ笑うんですよ。
クスクス、とかじゃない、ぎゃはは!って大きな声で笑うんです。それが逆に感情を揺さぶられた』
そう話す和田さん。この熱をちゃんと世間に伝えたい、そんな思いが芽生えたといいます。
館長のお話を聞き、好きなように映画を見ることができる自分の現状が決して当り前ではないこと、
そしてそれ以上に、「目が見えない人には、その人たちにしか味わうことのできない映画の魅力や
空気感がある」ということにも気づかされ、ハッとしました。
見えない世界に声という色を付ける。〖音声ガイド〗へのこだわり
そんな和田さん、紆余曲折を経てバリアフリーの映画館、
「Cinema Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」の支配人になることに。
そこで、映画業界の厳しい現実にぶつかります。
日本では音声ガイドに対応した映画がまだ少なく、邦画でも対応作品はごくわずか。
バリアフリーの映画を観たくても観られない人がいる状況が続いているといいます。
「ないなら、自分で作ろう」

そう決意した和田さんは、周囲からアドバイスを受けながら学び、恩人である音響監督にも支えられ、目の不自由な人のための音声ガイド制作の仕事を始めました。
驚いたのは、そのこだわり。
和田さんが目指したのは「情報として正しい音声ガイド」だけではありませんでした。
「音声ガイドそのものがエンタメであってほしい」
和田さんが大切にしているのは、韻の響きや言葉のリズムでした。
能率は二の次。情景が浮かべば良い、というところに留まらず、母音や子音の組み合わせまで考え抜きながら原稿を書くそうです。
私も実際にAmazonプライムで配信されている「ルックバック」という作品を、音声ガイド付きで鑑賞してみました。
なんとこの話題のタイトルも和田さんが音声ガイドを担当しているのです!
聞いてみて感じたのは、耳心地の良さ。
劇半や効果音、セリフを決して邪魔することなく差し込まれる説明は、聞いていてとてもワクワクしました。

その結果、「和田さんの音声ガイドは面白い」と評判になり、全国から依頼が寄せられるように。
その作品がより輝けるようにするにはどうすればよいのだろうか?
常に作品へのリスペクトが注がれる和田さんの音声ガイドは、今も多くの人にエンタメを届けています。
『エンタメ格差』のない益田市に
そんな和田さんが、縁あって引き継ぐことになったのが小野沢シネマ。
和田さんが支配人を務めていた東京の映画館に訪れた益田市出身の女性から、
「祖父がかつて経営していた益田市の映画館を復活させたい」と相談を受けたといいます。


和田さんの妻・更沙さんは益田市出身。
子供の頃、小野沢シネマでよく映画を見ていたといいます。
人口減少が進む地元に心を痛め、何かできないかと考える更沙さん。
そして、エンタメは平等に届くべきであると考える和田さん。
二人の想いは小野沢シネマの復活へと動き始め、益田市への移住を決意。
コロナの影響を受けながらも2021年より本格的にプロジェクトを始めたのです。

資金調達のためにクラウドファンディングを実施すると、映画館の復活を喜ぶ多くの人が協力してくれました。
映写室を新設し、デジタル映写機も導入。2022年1月26日、小野沢シネマの幕が再び上がりました。

SNSの発信だけではなく各地でチラシを配るなど地元に寄り添う形で、老若男女すべての人に映画館の存在が行き渉るように工夫をしたといいます。

『益田で映画館なんて儲かるわけないじゃん』聞こえてきた厳しい声
10万人当たりに1館で採算がとれると言われている映画業界。44000人の益田では難しいのが現状です。
『こんなところで映画館なんてやっても儲かるわけないじゃん』という厳しい声が聞こえたこともあったそうです。

「実際、収入の面だけ考えると、音声ガイド一本に絞った方が稼げるんですよ」と笑って話してくれた和田さん。
全国から和田さんの音声ガイドを求める声が増え、音声ガイドの収入で生計を立てられるようになったことから、
映画館の赤字を音声ガイドの収入で補填。ほぼ慈善事業で映画館を運営している形に。
どうしてそこまでして、益田に映画を届けるのか?
そう尋ねた時、和田さんはご自身のお子さん、そして益田の子供たちへの想いを話してくれました。

きっかけは、2歳の娘さんと映画を見たこと。
子供向けのアニメーション映画とはいえ、まだ2歳。途中で飽きてしまうことも覚悟の上で見せたところ、
約100分の映画を最後まで楽しんだといいます。
一度もぐずることなく、『楽しかった』と喜ぶ娘の姿に、
「どんな子供たちにも『非日常』に連れて行ってくれる映画館という存在は必要だ」という思いが強くなりました。
和田さん夫妻が益田市に移住し小野沢シネマを復活させたのはコロナ禍真っ只中の2021年。
益田の子供たちはコロナ禍でどこも行けず、誰とも会えず、ただ家でネットだけ見て過ごすのか?
多感な時期こそ、そんな日々を過ごさせるわけにはいかない。意地とプライドが背中を押しました。

都会では、観たい映画を沢山観ることができます。
話題作も、ミニシアター作品も、少し電車に乗ればたどり着ける場所があります。
一方で地方では、その選択肢すら持てない場合も。
和田さんは、それを「エンタメ格差」と表現していました。
だからこそ映画館を残したい。
自分がかつて映画や音楽に支えられたように。
益田の子どもたちにも、映画が心の支えになる瞬間があってほしい。

私の地元である浜田市にも小さな映画館がいくつか存在していましたが、時代と共に閉館してしまいました。
そのため、幼い頃は見たい映画があるたびに、母が広島の映画館まで車を走らせてくれたという思い出があります。
ファンタジーやドキュメント、画面の向こうに夢中になる特別な時間は、今の私を形作るには十分なものでした。
だからこそ、益田市の映画館が復活したというニュースは大変喜ばしく、いつか小野沢シネマで映画を見たい!という思いから始まった今回の取材。

サブスクで簡単に映画を見られる時代、ショート動画が好まれる「タイパ」の時代にこそ、
誰にも邪魔されず、途中で止めることもできない、映画館という箱で映画の世界に没入すること。
そして、人の手から生み出されるエンタメに心を打たれるという経験。
子供の頃に経験したそれらは、必ずその後の人生を豊かにしてくれます。
その豊かになった心はまた何かを生み出し、次の世代へエンタメを届ける。
バトンを渡すように、絶やしてはいけないエンタメの炎を繋いで。

「今まで色んな人に助けられて、ここまでやって来れた。
全力でやった結果が数年後、十年後、もしくはもっと後に巡り巡ってくるかもしれないから、映画館も少しも手を抜いては行けない」と笑って話す和田さん。
何分後、何年後の自分が笑っていられるために。
全ての人を笑顔にするべく、今日も小さなシアターは開館しています。
施設情報
住所:〒698-0027 島根県益田市あけぼの東町2-1 小野沢ビル3F (益田駅から徒歩約7分)
TEL/FAX:0856-25-7577
mail:onozawacinema@gmail.com
料金:一般:1,800円 シニア(60歳以上):1,200円 大学生:1,500円 中高校生:1,000円
三歳以上:700円 バリアフリー割引:1,000円
※定休日:月曜・火曜(月火が祝日の場合も基本的には定休としています)
営業時間:水曜~日曜 9時30分~19時30分
駐車場:無料平面駐車場完備(80台収容)
























