こんにちは。
インテリアアドバイザーのアダチツヨシです。
今回は、長く「家具」と付き合うことで見つかる、“暮らしを楽しむヒント”のお話しです。
愛用の家具が壊れたら・・・
突然ですが、もしみなさんの使っている家具が壊れたとしたら、どうしますか?
大抵の方は、まず直して使えないかと考えると思います。
そして多くの人は買ったお店で修理してもらう。できなければ処分する。
という流れではないでしょうか?
(自分で直すという方もいらっしゃると思います。)
ただ、愛着ある家具であれば、何とか直して長く使いたいと思うもの。
長く家具を使い続けるために必要なことって、どんなことなのでしょうか?
家具の構造を知り尽くす職人に聞く「家具を直すこと」とは
鳥取県米子市淀江町に工房を構える家具職人・渡部洋岳さん。木製家具の修理、生地の張り替えを行うほか、オンラインショップ「Heima(ヘイマ)」を運営し、北欧ビンテージ家具の輸入・リペア・販売も行っていらっしゃいます。(※現状、オンラインショップのみ)
そんな渡部さんに、家具を直したり、受け継ぐことで得られることについて伺いました。
家具と長く付き合う中で、修理が必要となるケースは不意にやってくるもの。みなさんは、一般的に言われる家具の「修理」と「リペア」の違いってわかりますか?「リペア」は、何となく耳にする言葉ではあるものの、「修理」と同じことと理解している方も多いのではないでしょうか?
よく、古い家具を手入れして販売することを「リペア」と言ったりします。「修理」も家具を修復するという点では同じものの、渡部さんにとってそれは別ものだとおっしゃいます。
まず「修理」について。
一例で言うと、お客さんが使っていて破損してしまった家具を直すのが「修理」です。この場合渡部さんは、どんな修復作業をどこまでの範囲で行うか、お客さんと事前のしっかりとした打ち合わせを行うそうです。それは、いくつもある修理方法の中から、お客さんの暮らしに最もフィットする方法を選択してもらうためです。
例えば、脚がぐらついた椅子を修理する場合。
木製椅子でよく見られる構造に、木のパーツ同士の凹凸を組み合わせる「ほぞ組み」という方法があります。脚がぐらつく原因の多くが、この「ほぞ」が抜けることに起因します。
実はこの「ほぞ」には家具への負荷が集中しやすく、パーツが抜けることでうまくそれを逃がしている。そんな重要な部分だけに、その修理にも2つの選択肢が生まれるといいます。
修理パターン①
〈再び同じ症状が出ないように、とても強固な接着剤で固定する。〉
→ほぞが抜ける可能性は大幅に減るが、本来ほぞに掛かっていた負荷が他へ分散されるため、パーツ自体が折れるなどより大きな破損につながるリスクが生じます。そこまでの重度な破損の場合、接着だけで直すことが困難になることもあります。
修理パターン②
〈安全性に問題ない程度の接着力で固定する。〉
→ほぞが抜ける同じ症状が将来的(数年後)に出る可能性はあるものの、その際も接着だけの簡単な作業で修理することができる。長い目で見ると家具にとって負担が少ない一方、都度直しながら使い続けていくという面倒な面もある。
ほぞを接着するだけの一見単純な作業に見えますが、この先、所有者がどう家具と付き合っていくのかを考える絶好の機会になるのがこのタイミング。そんなとき、お客さんと意思の擦り合わせを行い修復するのが「修理」だと渡部さんはおっしゃいます。
一方で、ビンテージ家具などの修復の際に行う「リペア」では、家具へのリスペクトが大きなポイントとなります。「ビンテージ家具」とは、製造されてから数十年を経過し、100年に満たない家具を指します。(※100年以上経過したものを「アンティーク」という。)
暮らしの中で経年変化によって刻まれてきた味わいを、損なうことなく修復するという作業。過去に想いを巡らせながら、現代の技術を重ね合わせて作業を進めることになります。
今や、一点ものの資産ともなるアイテムとして国内外問わず注目を集めている北欧ビンテージ家具を取ってみても、年々その市場価値は高まっています。それは単にコレクターが収集しているだけに留まらず、価値あるものを受け継ぐ文化が広く浸透していることの裏付けともいえるのではないでしょうか。
家具を長く使い続けるために必要なコト
近年、ものを受け継ぐ暮らしに多くの関心が向けられています。それは、歴史あるものに刻まれた味のある雰囲気や、自然と暮らしに馴染んでくれる魅力に心地よさを感じるからでしょう。
特に家具はお部屋の印象を大きく左右するアイテムでありつつ、実際の機能面としても暮らしの心地よさに密接に結びついてきます。
では、私たちはどんなことに気をつけて家具と向き合えば良いのでしょう?そんなポイントも渡部さんに伺いました。
まず1つ目は、その家具本来の使い方をすること。
当然のことながら、家具の設計はイレギュラーな使い方を想定していないことがほとんど。ついついやっちゃいがちですが、ちょっと高いところのモノを取りたいからと、椅子やテーブルに乗ったりするのもNGです。
2つ目は、家具に異変を感じたら、すぐに処置をすること。
これは私もインテリアショップに勤めていたときに何度も伺ったことのある話です。はじめは少しのぐらつきだった椅子の脚が、無理して使い続けているうちにパーツごと折れてしまった。プロから見ると「もっと早く対処していれば、こんなに大事にならなかったのに・・・」と嘆きたくなる場面ですが、それだけ重大事態になるとはなかなか予期できないですよね。
渡部さんは、家具に現れた不具合をこんな風に例えられました。「人の風邪のひきはじめの対処と同じく、早めに対応することで被害を最小限に食い止めることができる可能性が高まります。」確かに、人間の風邪と同じ視点で考えると納得がいくものです。
最後に、むやみな手入れをしないこと。
もちろん家具のお手入れをすることは重要で、長持ちさせるには必要なことです。でも、誤った方法で手入れをしてしまうと、かえって逆効果になる場合があります。例えば、合わない薬品を使用した場合、もともと塗ってある表面の保護成分の効果を弱めてしまう場合もあります。アルコール消毒なども要注意です。
手入れ方法が不安なときは、購入店舗へ問い合わせるのが最も安心。「それでももし分からないようなら、僕に聞いてください。」と渡部さん。とっても心強いです。
でも、「あまり神経質になり過ぎないことも家具と長く付き合うポイント」と、渡部さんは付け加えられました。私も同感。家具を身近に感じて使うからこそ、愛着が生まれると考えています。
蘇った家具と迎えるこれからの暮らし
ちょうど取材の日も、渡部さんのもとには椅子の張り替え依頼が。
長年使われていた椅子の生地に擦り切れが見られ、新しく別の生地に張り替えられるところでした。
生地と中身のクッションを一新し、また元の暮らしへと戻っていく家具たち。私も何だか勝手にワクワクしちゃいました。
何かを大事に使うことって、機能的な面だけでなく、気持ちの面でも大きな価値をもたらしてくれます。手入れや修理をするなど、ひと手間掛けることで「もの」との向き合い方がさらに深まる。それはきっと、暮らしを楽しむヒントではないでしょうか。みなさんも一度、身近に長く使っている家具を見つめてみてはいかがでしょうか。
さて次回は、渡部洋岳さんに「Heima」を立ち上げた想いについて語っていただいたインタビュー、そして工房の様子をご紹介します。かつて牛舎としてして使用されていた建物を、工房へとリノベーションした経緯、出身地の横浜から米子へ移り住んで見えたことなど、ひとりの人物から学ぶ「暮らしを楽しむヒント」をお伝えします。どうぞお楽しみに。
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取材協力:Heima
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