今年のアカデミー賞授賞式は、日本時間の3月13日(月)。オスカーに向けて、各組合や団体の授賞式が続々と開催されている。それらの結果を受けて、オスカーの予想が固まっていく。
ということで、今回は、私の予想を書いてみたい。
以下、候補と私の予想&希望(太字)とその理由だ。
作品賞
『西部戦線異状なし』
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『イニシェリン島の精霊』
『エルヴィス』
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『フェイブルマンズ』
『TAR /ター』
『トップガン マーヴェリック』
『逆転のトライアングル』
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(以下、エブリシング~)』は、私の一番のお気に入りで、興行的にも成功し、映画賞レースを席巻している。
オスカーの前哨戦とされる様々な賞で作品賞をはじめ、演技賞、監督賞も受賞している。2月25日に行われたプロデューサー組合の授賞式でも、同作が栄冠に輝いた。プロデューサー組合の会員の多くがアカデミー賞の会員。しかし、アカデミー賞の作品賞は、プロデューサー部門に所属する会員だけでなく、全部門の会員が投票する。同組合賞の受賞作がオスカーも確実に手にするとは言えないものの、プロデューサー組合の33年の授賞式の歴史の中で、受賞作が一致したのは実に23回。そして、近年の多様性のトレンドも追い風となって受賞確実と言えよう。
写真は作品賞を受賞したインディペンデント・スピリット・アウォードのアライバル。(写真向かって左から、監督のダニエル・シャイナート、キー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨー、ダニエル・クワン)
様々な賞を総ナメにしている作品ゆえに、それぞれのイベントでレッドカーペットを歩く4人だが、どのイベントでもおどけたポーズで、気のあった仲良しぶりを見せてくれる。
主演女優賞
アンドレア・ライズボロー(『To Leslle』)
ミシェル・ウィリアムズ(『ファイブルマンズ』)
ケイト・ブランシェット(『TAR/ター』)
アナ・デ・アルマス(『ブロンド』)
ミシェール・ヨー(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)
なんと言ってもミシェル・ヨーだろう。
受賞して欲しいし、アジア系初の主演女優賞として、キャリア、ルックス、性格も申し分ない。彼女を選ばないで誰を選ぶだろう?と疑問に思うほど。ミシェルは、華があり、エレガントな物腰。多様性のトレンド、演技、キャラクターもさることながら、彼女の親しみやすい性格は全ての人を魅了する。
助演女優賞
アンジェラ・バセット (『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー 』)
ケリー・コンドン (『イニシェリン島の精霊』)
ジェイミー・リー・カーティス (『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)
ステファニー・ハウス (『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』)
ホン・チャウ (『ザ・ホエール』)
予想が難しいカテゴリーだ。
その存在感と功労賞の意味も込めてアンジェラ・バセット、ジェイミー・リー・カーティスの勝負となりそう。個人的には、ジェイミー・リーの裏表のない性格と『エブリシング~』で見せたバラエティに富んだ演技は、強烈で歴史に残るものゆえに受賞してほしいが、アカデミー賞の会員の年齢層と多様性のムーブメントを鑑みるとアンジェラがややリードしているように思われる。ただ、ケリー・コンドンの演技も良かった。女性の地位向上をアピールする役柄だけに、ダークホースと言えよう。
ホン・チャウの演技は本当に素晴らしかったので、ぜひ注目してもらいたい。もし、彼女が受賞したら……。主演、助演共に女優賞がアジア系という歴史を作ることになる。
主演男優賞
オースティン・バトラー(『エルヴィス』)
コリン・ファレル(『イニシェリン島の精霊』)
ブレンダン・フレイザー(『ザ・ホエール』)
ポール・ミスカル(『Aftersun』)
ビル・ナイ(『生きる-Living』)
かつてイケ面アクション・スターとして輝いていた頃からは想像もつかないルックスで、愛する人を亡くし、取り残された悲しみのどん底でもがく肥満の中年男性を熱演した。映画を観てから1ヵ月以上経つが、彼の演技が脳裏に焼き付いている。ミシェル同様、全米俳優組合でも主演男優賞を受賞したブレンダン。ゴールデングローブ賞の会員のセクハラによりブラックリスト入りと精神的ダメージにより出演作が激減した彼の起死回生の渾身の演技をアカデミー賞会員が認めないワケはない。
助演男優賞
ブレンダン・グリーソン (『イニシェリン島の精霊 』)
ブライアン・タイリー・ヘンリー( 『その道の向こうに 』)
ジャド・ハーシュ (『フェイブルマンズ』 )
バリー・コーガン( 『イニシェリン島の精霊 』)
キー・ホイ・クァン(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)
カムバックと言えばっ!キー・ホイ・クァンのハリウッド史上に残る大復活に私を含め、中年の映画ファンは涙したことだろう。
『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』『グーニーズ』で世界的映画スターとなった彼は、日本ではファンクラブができるほどの人気ぶりだった。しかし、その後、出演作が激減という子役が背負うカルマにハマり、長年、裏方として映画に関わり、俳優業は過去の栄光として諦めていたところに『エブリシング~』の出演。後はご存知のように各賞を総ナメにする勢いだ。
ただ、オスカーとなると一筋縄ではいかない。強敵はブレンダン・グリーソンとジャド・ハーシュ。ジャドは、主演時間は短いものの、登場する度にシーンをさらっていた。ブレンダンの演技は天才的。これまでのキャリアも鑑みると、シニア会員の票を集めそうだ。ただ、多様性推進のトレンドの波に乗って、キー・ホイに投票する会員も多くなりそう。そうなった場合、ミシェルが主演女優となれば、アジア系が演技賞枠を半分埋めるという記録を作ることになる。
監督賞
マーティン・マクドナー (『イニシェリン島の精霊』 )
トッド・フィールド (『TAR/ター』)
リューベン・オストルンド (『逆転のトライアングル』 )
ダニエル・クワン (『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』)
ダニエル・シャイナート (『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 )
スティーヴン・スピルバーグ (『フェイブルマンズ』)
全米監督組合も受賞した監督コンビのダニエルズ(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)は、現在、賞レースのトップを走っている。ただ、改革と世代交代が叫ばれる映画芸術科学アカデミーの会員(アカデミー賞の投票権を持つ)にとって、『エブリシング〜』は全く理解できないと思われる作品ゆえに、難しいところがある。
しか〜し!あの混乱の極みとも思えるストーリーと展開をアクションも交えながら、最後は美しく感動的に収拾した力量はずば抜けている。私が会員だったら絶対に投票する。
ハリウッドはユダヤ系が多い。ハリウッドの第一線で活躍し続けるスティーブン・スピルバーグの自伝的映画『フェイブルマンズ』は、映画界に功労してきた彼の原点が分かる作品であり、ユダヤ系の要素が詰まった作品でもあるゆえに、本作で監督賞という美しい流れを希望する会員も多いかもしれない。
『イニシェリン島の精霊』は、シーン毎に「この話は、一体どこに進むのだ?これを納得いく展開にさせるには並大抵の才能では無理だ」と思わせた映画だった。
オスカー前哨戦となる各団体の授賞式をいくつか取材した。その様子を次回紹介します。お楽しみに〜。
はせがわいずみ